奈良芸術文芸サロン|歴史観光の佐保山茶論

奈良芸術文芸サロン|歴史観光の佐保山茶論
佐保の大伴氏
 
佐保の大伴氏
 平城京遷都後、大納言兼大将軍「大伴安麻呂」は奈良の佐保に新邸を営み「佐保大納言」と呼ばれた。
安麻呂の子が万葉歌人「旅人」で、その子(安麻呂の孫)が万葉歌人で『万葉集』編纂者の「家持」である。
3代にわたり佐保の地に邸を構え、佐保大納言家と呼ばれる。
旅人の異母妹(家持の叔母)に万葉歌人「大伴坂上郎女」がいる。
大伴氏はヤマト王権成立以前から、大王(天皇家)直属の内兵(親衛隊)として誉れ高い軍事名門氏族であった。
平城宮の正門「朱雀門」のことを「大伴門」とも呼んでいたことからそのことが窺い知れる。

○酒仙の大伴旅人

 母はヤマト王権時代からの名族巨勢氏出身。
父安麻呂亡き4年後、718年、54歳のとき中納言になり、中央政界で重きを置くが、その10年後、大宰府の帥に赴任する。中央政界から遠ざかり、充たされない思いの中で、機会あるごとに館に官人たちを集め酒宴を催した。
万葉歌人「山上憶良」との交流、また、妻との死別もあり、強い望郷の念もあいまって数々の歌を詠んだ。
730年、任を終えて、大納言として帰京し、佐保の我が家に戻ったものの前年に起こった長屋王の不幸な死、それに大宰府で亡くした妻のことがしきりに思い出され、旅人の心は癒やされることはなかった。
帰京後、一年を経ず、67歳の生涯を終える。旅人は『万葉集』に76首の歌を残す。

酒を讃むる歌
賢(さか)しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするし優りたるらし
(巻3、341)
    

 

 

○恋多き女、大伴坂上郎女

 母は石川内命婦。旅人の異母妹で、家持の叔母。『万葉集』の女流歌人のうち最も多くの歌を残した才媛。
10代半ば、政府首班をつとめる穂積皇子に嫁ぎ、天性の歌才を開花させていくが、皇子の死後、宮廷の実力者である藤原不比等の四男藤原麻呂との間に恋が成立したが、この関係は長く続かなかった。その後、異母兄の宿奈麻呂と結婚して2人の娘をもうける。夫宿奈麻呂と死別後、さまざまな恋の遍歴を経験したようである。
恋多き女というのが彼女の代名詞だが、彼女はただ恋愛だけにうつつをぬかしていたわけではない。旅人亡き後の大伴家の家刀自として、少年家持の教育係として佐保大納言家に足繁く通い、宮廷貴族のたしなみとされた詩歌についてきびしく指導した。彼女は甥家持の自由奔放な女性関係に手を焼きながらも、年頃になった家持に長女の坂上大嬢を娶らせる。
大伴家のゴッドマザーであった郎女は、『万葉集』に84首の歌を残す。これは家持、柿本人麻呂に次ぐ数である。

恋の歌
思はじと言ひてしものを朱華色(はねずいろ)の移ろひやすき我が心かも 
(巻4、657)

○『万葉集』編纂者の大伴家持

 父旅人54才の時の子。旅人の正妻には子がなく、正妻以外の女性との間に生まれた子である。大伴坂上郎女は叔母。
父旅人を14歳で亡くし、不運にも官界に向かう大きな後ろ盾を失なったことは家持にとって大きな痛手であったが、反面、誰にはばかることなく若くして自由に振る舞える身になり、佐保の地で青春を謳歌した。
内舎人として朝廷に出仕した後、宮廷で勢威を振るった橘諸兄の庇護を受けて官界での地歩を固めてゆき、746年6月、29歳で越中守に任官する。
越中に赴任した家持は、5年の歳月を越中の国府(現在の富山県高岡市伏木)で過ごす。
望郷の思いを抱きつつも、都の政治の喧騒から離れ、越中の雄大な自然と温かい人情が家持の気持を和ませた。越中在任中、彼の歌境はいよいよ冴え、独自の世界を開いた。越中在任期間、223首もの歌を詠み、歌人として最も充実した時期だった。
少納言に任ぜられ、751年、34歳の時、帰京し、久方ぶりに佐保の我が家に戻った。その後、かの有名な「絶唱三首」を詠んだ。

絶唱三首より一首
うらうらに照れる春日(はるひ)にひばり上がり心悲しもひとりし思へば
(巻19、4292)

 しかし、何故か42歳を機に歌わぬ人となった。正確に言えば759年1月の歌をもって家持の歌日誌に記録されることがなくなった。名門大伴氏であるが故に政変の渦中に巻き込まれることになったからか、その真相は謎である。
時の権力者の狭間で揺れ動き、時代に翻弄されつつも晩年中納言に昇進し、68歳の生涯を終える。
家持の大きな功績は、さまざまな困難にもめげず、実に恐るべき執念をかたむけて4500余首集めた日本最古の歌集として日本文学史上最高の文化遺産である『万葉集』(全20巻)を編纂成立させたところにある。
家持自身、『万葉集』最多の473首の歌を残す。

『万葉集』掉尾を飾る家持最後の歌

新(あらた)しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重()け吉事(よごと
(巻20、4516)
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